「大切な星の存在」

今回は2019年1月に記載したブログを紹介します。この当時の僕は、自分の関心が脳神経外科から緩和医療に移ってきたころでした。そのため緩和医療に関する学会や講演会などへ積極的に参加するようになったのです。それは自分のところへガンマナイフ治療を受けにくる転移性脳腫瘍のがん患者さんにどのような緩和ケア(心理的なケア)ができるのか、それを学びたかったのですね。

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「では、みなさんの星って何ですか?」

千葉県がんセンター緩和医療科の坂下美彦先生から投げかけられた質問です。

私は2008年4月から現在の診療(定位放射線治療:ガンマナイフ治療)を選任で行うようになっています。
そのときから重い病気(脳腫瘍、癌)の患者さんと話をすることが毎日の診療になりました。
それまでの10年間は脳神経外科一般の診療でしたので脳卒中(脳内出血、くも膜下出血)頭部外傷など、
頭の血管障害を専門に診ていましたので、2008年4月当初は、『命に関わるような重い病気の患者さんとどう接したらいいのか。
患者さんの不安な気持ちに応えられるだろうか。きっと気分が落ち込んでいるのだろう。励ますのがいいのだろうか。
そして生死に関わるような難しい問いに上手く答えることができるだろうか。』
そんな考えを持ったように記憶しています。

そして実際に診療をはじめてみて感じたことがあります。
それは私の予想を覆すものでした。

『患者さんの方が私よりも生き生きしている。』
『毎日楽しそう。』

もちろんいろいろな気持ちを私の前では隠されているのかもしれませんが、それを加味しても患者さんの
積極性や行動力には驚いてしまうことが何度もありました。

「先生、この写真見て。先月、家族でスイスに行ってね、アルプスの山に登ってきたの。」

「先生、以前からやりたかった畑を始めたのですよ。今度、野菜が採れたら持ってくるからね」

「先生、運動続けてもいいですよね。私、20年以上、毎週テニスをやっているの。体を動かさないと気持ち悪くなっちゃうのよ。」

診察しているとかえって私の方が元気をもらってしまうようでした。

そして考えることがありました。

『果たして自分が同じ病気を患ったとしてそんなように振舞えるだろうか。』
『何がその行動の源なのだろうか。』
『もしできないとしたら、どうしたらできるようになるだろうか。』

そのような問いを持ちながら緩和医療を学んできたところ1つ答えが見えてきたのです。

それは先日、在宅医療を考える市民公開シンポジウムへ行ったときでした。
冒頭の坂下美彦先生が 「治らない病と共に自分らしく生きるを支える」 をテーマに講演されました。
その講演の中で、このように話してくださいました。

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「人間とはたとえどんな苦しみがあったとしても、
もし支えがあるのなら、その人生の中に喜びや楽しみを見出して生きていけるものなのです。
そして、その支えは例えば、空にある星のような存在かもしれません。
空が明るいときは、そこにあるはずの星は見えず、空が暗くなってきて、はじめて見えてくるものです。
では、みなさんの星って何ですか。
それは、家族かもしれませんし、ペットかもしれませんし、大切な思い出の品物かもしれませんし、
記憶の中のある場面かもしれません。」

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そして、それ以来、
私は仕事からの帰宅時に夜空の星を見上げては私の大切な支えを思い出すようになりました。

そして、こうも考えているのです。
その支えは1つではなく、たくさんあってもよいかもしれない。
そうだとしたら私たち医療者は患者さんにとっての2番手、3番手、4番手の支えの一つに
なれるのかもしれない。

そういった医療をみんなと一緒にしていきたいなと思うようになってきました。

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そして、その思いが「茂原すみれ訪問クリニック」として形になっているのです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。