「在宅医療に魅了される」

今回は2020年10月に投稿したブログを紹介します。この当時の僕は、自分の関心が脳神経外科から緩和医療となり、それを実践する場を病院の緩和ケア病棟ではなくて在宅医療としたいと真剣に考えていたころでした。そして、実際に、この半年後に病院を離れ、在宅医療の道へ進むことになったのです。

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「ところで在宅医療って何をするの?」

先日、上司(脳神経外科医)に僕の将来の夢について話していたところ、こう聞かれたのです。

「先生、それを聞きますか? 話し出すと、長くなってしまいますけれども良いですか?」

「そうか、それなら、また時間があるときにでも聞こうかな」

と返されてしまい、またの機会になってしまいました。折角、語ってみようって思ったのに。残念なので、この場にまとめておこうと思うのです。

さて、僕が在宅医療に興味を持つようになったのは、3年ほど前(2017年)からです。そして、具体的に自分がその領域の医療をやってみたいと思うようになったのは2年前(2018年)に大岩孝司先生と出会ったことが大きな転機になりました。そこからは一気にその想いと行動が加速され、現在までにたくさんの在宅医療に関わ方との関係が出来てきています。

そんな中で、1年前に映画「ピア~まちをつなぐもの~」を観て、そのときの心情をまとめています。

一部を引用します。

以前から自問していることが浮かんできました。
「医療の質ってなんだろう?」 
「病院という建物が医療の質を担保するのに必要なのだろうか? 
 それとも病院が保有するCTやMRIといった検査機器の有無なのだろうか? 
 もちろん病気を治すという視点からは最新の設備や最新の技術が完備された病院を、質が高いというのかもしれない。
 ただ本当にそれなのだろうか。」
この映画に出てくる在宅医療に関わる医療者は医師、看護師、介護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、歯科衛生士、栄養士などたくさん出てきましたが、全員がその町で暮らし、その町を愛し、その町の人とピア(仲間)になって、一緒に病気の方を支えていました。
もしかしたらこのような温かな人と人の繋がりを持った在宅医療も質の高い医療と言えるのかもしれない。
そう思えてきたのです。


ただ、それ以降も僕は在宅医療、病院での医療について考えていたのです。

そして、ある時に気づくことがあったのです。

僕は患者さんからどんな言葉が聞けたら嬉しいのだろうか。

もし、その言葉が聞けたならば、その手段は病院での医療であっても、在宅の医療であっても、どちらでもいいのではないか。

そして、
「在宅医療って何をするの?」
と、次の機会に上司から聞かれたら、僕はこう答えたいなと思うようになりました。


「先生は患者さんから何て言う言葉を言われたら嬉しいなって思いますか。
やはり「先生のお陰で元気なりました」とか「先生のお陰で命が助かりました」とかでしょうか。
脳神経外科医ですから自分の手で手術をした患者さんからこう言われたらとても嬉しいことですよね。
僕もかつて手術をしていたころはそうでした。

ただ、今の僕は患者さんから、こう言われたら嬉しいのです。

「先生、安心した。ホッとした。」

実は、僕はこの言葉を聞きたくて、ずっと医療をしてきたのだと気づいたのです。

それならば、その言葉を貰うには、病院という場所で僕は診察をしなくてもいいのではないかと思うようになったのです。例えば、CT、MRI、レントゲンなどの検査や、採血をして、その検査結果がないと、僕は患者さんを安心させることができないのだろうか、そもそも医者の原点は、自分の5感(視診、聴診、触診など)を使って、患者さんを診察して、医師として身にまとっている空気感も合わせて、患者さんに「大丈夫だよ」と安心感と伝えるものではないのでしょうか。
もちろん、患者さんの不安をやわらげるような会話も含めてですけれどもね。そんなふうに考えるようになったのです。

そうなると、やってみたくなるわけです。
聴診器とか簡易的なエコーとか限られた医療機器の中で自分の医師としての技量を試される在宅医療を。
どうですか、先生も手術をしなくなったら、一緒にやってみませんか。楽しくなると思いますよ。



さて、こんな返答で、手術を毎日している脳神経外科医を納得させることは出来るかと聞かれれば、
たぶん、おそらく、それは、無理なことなのかもしれませんね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。